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垣内君の卒論「2011年東北地震が富士山の活動に与えた影響」がJournal of Geophysical Research – Solid Earthから発表されました。おめでとうございます!

2024.02.27

Research

https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-02-27-001

概要

東京大学大学院工学系研究科の垣内優亮大学院生、辻健教授らの研究グループは、微小な振動である「微動」を用いて、地殻深部の変化を高い時間解像度でモニタリングする手法を開発しました。この手法を用いることで、地震が、その直後に生じる火山活動に与える影響を調べることが可能となりました。本研究の結果から、2011年の東北地方太平洋沖地震の際に、富士山や箱根直下で水圧が上昇していたことや、火山地域では地震前の水圧に戻りにくいことが明らかになりました。このモニタリングで得られる情報(波の速度変化)は地殻深部を捉えたものであり、これまでの地表で得られるモニタリング結果(例えばGPSによる地表変動)と統合することで、より正確に火山活動をモニタリングできるようになると考えられます。

本研究成果は、2024年2月21日(米国東部時間)に米国地球物理学連合(American Geophysical Union)の「Journal of Geophysical Research – Solid Earth」のオンライン版に掲載されました。

内容

地震の後には火山活動が活発になることが知られています。例えば、江戸時代に発生した宝永地震(マグニチュード8クラスの地震)では、その地震の数週間後に、富士山で噴火が発生しました。この宝永噴火は、関東全域に甚大な被害を及ぼしました。近年では2011年の東北地方太平洋沖地震の後に、日本全国の火山活動が活発になり、地震後の火山噴火が心配されています。地震の後に火山活動が活発になるのは、地震が遠くで起こった場合でも、その揺れが遠方にまで伝わり、火山のマグマだまりを刺激してガスが発泡することなどが原因と考えられています。しかし、その地殻深部の現象を高い時空間的解像度で捉えることは難しく、地震と火山活動の関係を議論することは困難でした。

本研究では、地震が火山に与える影響を調べるため、富士山〜箱根火山周辺(150×150km)の地下約10kmまでの地殻深部の変化を推定しました(図1)。手法の詳細は省略しますが、微動に地震波干渉法という手法を用いることで、地殻深部を伝わる波の速度(弾性波速度)の時間変化を捉えることができます。弾性波速度は地殻の硬さや水圧に関係しますので、その変化から、地殻の硬さやマグマだまりの動態をモニタリングできます。さらに微動は連続的に発生しており、常に地震計で記録されていますので、この手法を使えば連続的に火山の深部の変化をモニタリングできます。しかし微動にはさまざまなノイズも含まれており、これまではモニタリングの時間解像度は数日でした。本研究では、地震計の全ての振動成分の情報を利用することや、特異値分解などのデータ解析技術の導入により、1日の時間解像度で火山を含む地殻をモニタリングすることに成功しました。

fig02

図1:東北地方太平洋沖地震と静岡県東部地震で変動した地殻深部(約5km)の変化

本研究によりモニタリングの時間解像度が向上したため、2011年の東北地方太平洋沖地震(マグニチュード9.0)と、その4日後に富士山直下で発生した静岡県東部地震(マグニチュード6.4)による地殻への影響を区別して評価することができました。例えば、東北地方太平洋沖地震の時に富士山や箱根火山直下で、弾性波速度が0.2%程度低下するという大きな変化が生じていたことや、火山地域では弾性波速度が地震前の状態に戻りにくいことが明らかになりました。これらの結果から、東北地方太平洋沖地震によって、富士山や箱根などの火山地域ではガスや流体の圧力が上昇したことが明らかになりました。さらに火山地域では、上昇した流体の圧力が地震前の状態に戻りにくいこともわかりました。なお、火山噴火前にも流体の圧力が上昇するとされています。つまり、この手法によって地震が火山に与える影響を捉えること、さらに火山活動の予測に寄与できることがわかってきました。

このモニタリング手法で得られる情報は、火山の深部を捉えた新しいものであり、これまでの地表で得られるモニタリング結果(例えばGPS)と統合することで、より正確に火山のモニタリングが可能になると考えられます。